『少年と犬』一匹の犬が、悩み傷つく人々の心を救う、感動の連作短編集

本の紹介

とても勇敢で賢い犬の名前は多聞(たもん)。2011年の東日本大震災以降、多聞は主人のもとを離れた後にある場所を目指す。

その途中で様々な境遇の人々と出会い、傷つき悩む人の心に寄り添う。

自分の歩んできた人生を悔やむ人、明日を生きることに希望を見出せなくなった人、癌を患い思うように行かない自分の体に苦しめられる人、そんな人たちを一匹の犬が心で支えてゆく感動の物語。

最終的に多聞が目指していた場所とは・・・・

※ネタバレなしを心がけています。結末や考察は、読者の方ご自身で楽しんで頂きたいと思っておりますので、出来るだけネタバレしないように書いています。ご覧になられた方で、ご期待に沿えない場合があるかもしれませんが、ご理解いただけますと幸いです。

内容説明(裏表紙より)

傷つき悩み、惑う人々に寄り添っていたのは一匹の犬だった。

2011年秋、震災で職を失い、家族のため犯罪に手を染めた男。

偶然拾った犬が守り神になった(男と犬)。

壊れかけた夫婦は、その犬をそれぞれ別の名前で呼んでいた(夫婦と犬)。

人と犬の種を超えた深い絆を描く感涙作。

第163回直木賞受賞。

主な登場人物

多聞(たもん)

シェパードと和犬の雑種犬。躾がされた勇敢で賢い犬。

中垣 和正(なかがき かずまさ)

震災によって職を失う。貯金を崩しながら認知症の母を介護する姉に、少しでも楽をさせるため犯罪に手を染めてしまう。(男と犬)

ミゲル

凄腕盗賊団の一味。貧しい環境で育ち、幼いころからごみの山を漁ったり、盗みを行うことが仕事だった。(泥棒と犬)

中山 大貴(なかやま だいき)

妻がネットショップで稼ぐお金で生活している。趣味に没頭するあまり、その延長でアウトドアショップを経営するが、遊びを優先しまともに仕事をしていない。(夫婦と犬)

永野 瑠衣(ながの るい)

交通事故により両親と自分の右足を失ってしまい、若くして車椅子生活を余儀なくされている。両親を失い、体も不自由になり、明日を生きる事に苦しんでいる。(少女と犬)

須貝 美和(すがい みわ)

金遣いが荒く、多額の借金を背負う彼氏のために体を売っている。(娼婦と犬)

片野 弥一(かたの やいち)

猟師をしていたが、妻と相棒の猟犬が立て続けに亡くなったため、猟師として山に入ることを辞めていた。猟友会の中では、一目置かれる凄腕の猟師だった。(老人と犬)

内村 徹(うちむら とおる)

2011年の震災により職も住む家も失い、家族で熊本県に移り住む。一人息子の光(ひかる)は、震災のショックで言葉が話せなくなっただけではなく、喜びや悲しみ、怒りなどの感情表現すらできなくなってしまう。(少年と犬)

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こんな人に読んでほしい

犬を飼っている、過去に飼っていた人

大切な人や、逢いたい人がいる人

現状に悩み苦しみ、生き甲斐を見出せない人

注目ポイント

多聞の目指す場所

物語のスタートは2011年の東日本大震災後のこと。中垣和正がコンビニの駐車場で多聞と出逢う事から話が進む。震災の影響で職を失い、一日一日を暮らすのがやっとだった和正の前に現れた多聞は、ガリガリに痩せこけ、その姿を見た和正は「被災したのは人間だけではないのだ」と心を痛める。

しかし、和正から見た多聞の目には力強さが宿っており、その佇まいからは群れを率いるリーダーのような逞しさや頼もしさを感じるのであった。

その後、和正は保健所に連絡して飼い主を探してもらうが、結局は見つからなかったので何かの縁と思い多聞を飼う事にした。

多聞と生活をしているうちに分かったことが一つあった。それは、いつもある方角を見ている事だった。散歩をしていても車に乗せていても、ふとした時に多聞を見ると南の方角を見ている。それに気づいた和正は「南に行けば多聞の飼い主がいるのか?」と思った。

そんな風にして、和正の後に出逢う人々の前でも一定の方角を見ている多聞。

しかし、多聞は人の心に寄り添える賢い犬である事や逞しさ・頼もしさから誰もが自分の家族にしたいと願う。

それでも、多聞が一途にある方角を見ている姿を見て、本当の家族のもとへ帰してやりたいと考えるのであった。

そして、震災から5年の歳月を経て多聞を目的地にたどり着く。それまでにたくさんの人々を救い、別れを惜しまれながらたどり着いた先は・・・

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助けた後に助けられる

この小説は連作短編集となっている。それぞれに関わりの無い人と多聞は出逢うが、必ず最初は多聞が助けられている。

食べ物に困り、獣に襲われ負傷した多聞を助けることで、人はこれまでとは違う自分に気づかされていく。お金が無く生活に困る人、自分の事だけを考え大切な人を守らない人、生きる事に嫌気がさしてしまう人。

そんな他人に目を向ける余裕がない人の前に多聞は現れ、助けさせることで今までとは違う自分に気づく人たち。

そして、今度は助けた多聞に人が救われていく。

この小説が読者の心を引き付けているのは、誰にでもある悩みや苦しみに、心から寄り添うことで解決していく多聞の姿に魅了されているからだと思う。

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過去に犬と暮らしていた

登場人物は過去に犬を飼っていた経験をしている。言い方を変えれば、過去に犬と楽しい時間を過ごし、心の支えにしていた経験を持つ人が出てくる。

初めて会ったのにも関わらず、弱弱しく傷ついた犬を親切に動物病院まで運び、保険がおりるはずもない高額な治療費を負担してでも救おうとするのは、過去にその人が犬と時間を共にしてきたから取れる行動だと思う。

動物を愛し、犬を愛する人だからこそ、多聞の気持ちが分かり心と心で会話が成立していたのではないだろうか。

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感想

率直に言えば、心に残る感動作でした。読み始めた時は「本当に守り神なの?死神なんじゃない?」と思った瞬間もありましたが。。。。

しかし、読み進めていくうちに多聞の役割や作家の馳星周さんの伝えたいことが見えてきて、物語に引き込まれていきました。最初に「死神じゃね?」と思った自分がとても恥ずかしくなりました。(笑)

私自身、昔に犬を飼っていた経験があります。家に帰ると尻尾をブンブン回して飛び掛かってくる可愛いチワワでしたが、私が落ち込み心が折れそうになった時は、そっと傍に来て、体一つ分の距離をあけてそっと見守ってくれるのです。

そして、私が「おいで」と言うと、様子を伺いながらゆっくる撫でてくれるのを待ってくれていました。

そんな経験をしているからこそ、本作で多聞に救われた人の気持ちに共感できました。確信を持って言いますが、犬には人間の表情や雰囲気から心情を汲み取る能力があると思います。

だから犬や犬に限らず動物は愛され続けているのでしょうね。

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