『法廷遊戯』必要なのは救済か制裁か。最後に裁かれる者の結末とは。

本の紹介

無辜(むこ)】・・・罪のないこと。また、その人。

1ページ目の最初に「無辜」の意味が、まるで辞書を開いたかのように記されていました。本のタイトルが「法廷遊戯」とあるように、法律に関することが多く書かれている小説で、法律家らしい始まりだなと感じました。

本作はミステリー小説に分類さていますがミステリー感はさほど強くなく、どちらかと言えばヒューマンドラマを見ているような感覚になります。それと一緒に、法律の身近さや面白さも味わうことができる1冊です。

※ネタバレなしを心がけています。結末や考察は、読者の方ご自身で楽しんで頂きたいと思っておりますので、出来るだけネタバレしないように書いています。ご覧になられた方で、ご期待に沿えない場合があるかもしれませんが、ご理解いただけますと幸いです。

内容説明(裏表紙より)

法律家を目指す学生・久我清義と織本美鈴。

ある日を境に、二人の「過去」を知る何者かによる嫌がらせが相次ぐ。

これは復讐なのか。

秀才の同級生・結城馨の助言で事件は解決すると思いきや、

予想外の「死」が訪れる。

ミステリー界の話題をさらった、第62回メフィスト賞受賞作。

主な登場人物

久我 清義(くが きよよし)

主人公。法都大ロースクールの学生。「きよよし」という名前が呼びにくいから「セイギ」とも呼ばれている。

織本 美鈴(おりもと みれい)

久我とは同級生でありながら、法都大ロースクールに入学する以前からの知り合い。

結城 馨(ゆうき かおる)

頭が良く、法都大ロースクールに入学する前から司法試験に合格している秀才。

こんな人に読んでほしい

法律が好きな人や法律家に関心がある人。

守るりたい大切な人や守るべき想いがあるひと。

客観的な見方や中立的な考え方を苦手とする人。

注目ポイント

無辜ゲーム

カードゲームやボードゲームのような、楽しく面白おかしく遊ぶものではなく、実際の法廷を模した模擬法廷のこと。法律を学ぶ学生ならでわの学習法と言える。

それぞれの立場に細かなルールが決められている。

【告訴者】

自分の身に降りかかった被害を特定し、犯人の人物を指定する事。

【証人尋問】

証人は嘘をついてはならない。しかし、自分の罪を暴露する質問に対しては嘘をつくことを許される。また、告訴者の質問には肯定か否定かの意思表明のみを返すこと。

【加害者】

刑罰規則に反する罪を犯し、サインとして天秤を残すこと。

この無辜ゲームを最初に始めたのは結城だった。また、裁判官としての立ち位置である審判官も結城がやっていた。

結城が有罪と判決し下した罪は、基本的に同害報復だった。「やられたら同じ方法でやり返すと」いった安易な考え方ではなく、「正当な対価で許す」という考え方である。

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「無罪(むざい)」と「冤罪(えんざい)」

本作中に何度も出てくる言葉である。どちらも意味としては「罪を犯していない」という事になるが、それ以外の違いについてすぐに答えれる人はどのくらいいるのだろうか。

無罪とは、裁判で犯罪が認定されないときに無罪と判決がでるもので、冤罪は犯罪を犯していないのに犯罪者と認定された場合に冤罪となる。どちらも罪は犯していないが、正しく判決されていない場合に冤罪となる。

本作に出てくる主な登場人物は過去にあった冤罪に苦しめられている。

冤罪を認めさせ大切なモノを守り、司法を改めさせようとする者や、過去の冤罪を隠し大切なモノを人生まで賭けて守りぬく者。そんな人々の心情をあらゆる角度から描かれた物語は、現代の法律のあり方について、なにかを訴えているように思える。

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無辜の救済

本作の中で、結城がこんなことを言っている。

「僕の前に10人の被告人がいるとしよう。そのうち9人が殺人犯で1人が無辜らしい。9人は直ちに死刑に処せられる罪人だ、しかし誰が無辜なのか最後まで分からなかった。10人に死刑を宣告するのか、10人に無罪を宣告するのか。審判官にはその判断が求められる。殺人鬼を社会に戻せば、多くの被害者がでてしまうかもしれない。だけど僕は、迷わず無罪を宣告する。一人の無辜を救済するために。

なぜ、結城は「無辜の救済」にこだわるのか。9人の殺人鬼を世に出してまでも、1人の無辜を助けようとするのか。それには、結城にしか分からない深い想いがあったのだった。

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無辜の制裁

「無辜の制裁」とは、無辜ゲームにて審判官が偽りの犯人を特定した場合や、審判官が罪を犯した場合に、審判官自身にも罪を科すということである。つまり、審判官を務める結城が自分自身に科した制裁(誓い)のこと。

この「無辜の制裁」があるからこそ、結城が審判官の立場として間違った判断を下さないと、周囲からは信頼を得ていた。

今まで何度か行われてきた無辜ゲームで、無辜の制裁がされたことはなかった。秀才の結城が誤った判断をしたことが無ければ、犯罪をしたこともなかったからである。

しかし、最後の山場では久我が言う「無辜の制裁。これが事件の真相なのかもしれない。」

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感想

「法廷遊戯」を読み始めた序盤は専門用語も多くて、普段から堅苦しい小説を読み慣れていない自分には、約400ページもあるこの小説を読み切れるのだろうか、、、、と不安になりました。序盤は法の在り方や無辜ゲームの説明が多いため、必然的に専門用語も多くなるのですが、中盤以降からは人物のストーリーが進展していくにつれてスピード感が増してきて、一気読みしてしまいました。

久我・織本・結城にある個々のストーリーは感慨深いものがあり、三者三様の想いに心を打たれました。また、他の登場人物に描かれた背景にも注目していただきたいです。そして、結末は予想もつかない展開が待っています。

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