『アルジャーノンに花束を』10代に薦めたい泣ける本。キミ本大賞第1位

本の紹介

全国の中学・高校教師が選んだ「君に贈る本大賞」に選ばれるだけあって、感受性の多感な10代にはぜひ読んでもらいたい一冊です。もちろん年齢問わず幅広い世代の方々にも知っていただき、この作品が長年愛され続けている意味を知ってもらいたいです。

私は現在36歳ですが、20年以上前にこの『アルジャーノンに花束を』と出会っていれば、今とはまた違う考え方や感性を持っていたかもしれません。そう思えるほど、この小説を読んだ後は考えさせられる事がたくさんあります。

内容説明(裏表紙より)

32歳になっても幼児なみの知能しかないチャーリー・ゴードン。

そんな彼に夢のような話が舞い込んだ。

大学の先生が頭をよくしてくれるというのだ。

これにとびついた彼は、白ネズミのアルジャーノンを競争相手に検査を受ける。

やがて手術によりチャーリーの知能は向上していく。

天才に変貌した青年が愛や憎しみ、喜びや孤独を通して知る人の心の真実とは?

全世界が涙した不朽の名作。

主な登場人物

チャーリー・ゴードン

32歳で知能は幼児なみの知的障がい者。脳手術を受け天才へと変貌する主人公。

アルジャーノン

チャーリより早く脳手術を受けていた、天才的な知能を持つハツカネズミ。

アリス・キニアン先生

ビークマン大学知的障害成人センターの女性教師。チャーリーに脳手術を薦めた人物。

ハロルド・ニーマー教授

ビークマン大学心理学部長。プライドが高い研究主任。

ジェイ・ストラウス博士

ビークマン大学の精神・脳外科医。チャーリーの脳手術を施した人物。

ローズ・ゴードン

チャーリーの母親。チャーリーの知能が障害によって低いことを受け入れることができず、無理やりにでも勉強させるが、チャーリーの物覚えが悪い事に苛立ち、よくヒステリックを起こしていた。

マット・ゴードン

チャーリーの父親。チャーリーの知的障害を理解し、ローズがヒステリックを起こすたびになだめていた。

ノーマ・ゴードン

チャーリーの妹。知的障害の兄を持つことから、学校でいじめにあう。

こんな人に読んでほしい

身近に障がい者がいる環境の方

いじめの被害者・加害者の経験がある方

感受性の多感な10代の方

注目ポイント

知的障がい者から見る目線

チャーリーはパン屋さんで働いているが、物覚えが悪いので与えられる仕事とといえば、掃除やパンを捏ねる機械に小麦粉を入れるなどの簡単な仕事だった。パン屋さんで一緒に働く仲間たちは、仕事ができないチャーリーに意地悪をして面白おかしくからかっていた。足を引っかけ転ばせたり、わざと難しい仕事をさせては失敗する度に怒り、泣きながらお漏らしをしてしまうチャーリを見て楽しく笑っている。

しかしチャーリーが感じていたことは、「仕事仲間は自分を見て笑ってくれるし、楽しそうにしてくれるから自分の事を好きでいてくれてる大切な友達」だと思っている。どんなに自分が失敗しても、お漏らしをしても、迷惑をかけても皆は笑ってくれるから、心からの友達なんだと感じ幸せに思っていた。

また、チャーリーは自分の知能が低く勉強ができないことをわかっていて、文字の読み書きができ、難しい話もできるようになってみんなと同じように賢くなりたいと願っていた。

アルジャーノンとの出会い

チャーリーは、すでに手術を受け天才的な知能を持つハツカネズミのアルジャーノンと出会う。アルジャーノンは複雑に作られた迷路を素早く理解しスタートからゴール地点まで迷うことなく進んでいく。

その光景を見たチャーリーは、衝撃を受けアルジャーノンと競うようになった。しかし、何度も何度も迷路の勝負をしてもアルジャーノンの勝つことができず、アルジャーノンの事が嫌いになり迷路勝負をやらなくなってしまう。その傍らで、早く手術を受けてアルジャーノンより賢くなって負かしてやりたいと熱意を抱き、一日でも早く手術を受けることを願う。

経過報告書

アリスからチャーリーの成長過程を記録する為に、その日に起こったことや感じたことを経過報告書にして提出するように言われる。まともに文字の読み書きができないチャーリーにとっては、短い文章でさせ書くのに時間かかかり苦痛に感じてしまう。それでも、アリスから言われたことを忠実に守り、賢くなる為に経過報告書を書き続ける。

脳手術

脳手術によりIQを上げることは、アルジャーノンを使った動物実験で成功していた。ストラウス博士は人間でもIQを上げることができる可能性を見出し、知的障がい者の中でも勉強熱心なチャーリーを人体実験として選んだ。

世界に何万といる知的障がい者のIQを脳手術で上げることができたなら、全世界が注目する研究成果になる。もちろん、一時的なIQの向上に過ぎないのか、永久的に継続できるのかはわからないので、手術後もチャーリーへのケアと経過報告書の提出は欠かさない。

手術前と手術後の変化

手術を受けたことによりIQが2倍以上も上がったチャーリーは、急激に脳は向上したが心の成長は追いついていなかった。知識は書物を読めばすぐ得られるが、心の成長は今までに経験してきた事により育まれるため時間がかかった。

また、今まで知らなかった事もたくさん見えてきた。パン屋さんで一緒に働く仲間が、実は自分を馬鹿にして笑っていた事や友達だと思われていなかったこと。ストラウス博士やニーマ教授は、自分や世界の知的障がい者の事を第一に考えて研究していたと思っていたが、実は本人の名誉のためにやっていた事など、手術前では分からなかった事が分かるようになり、チャーリーは苦しむことになる。

賢くなるにつれて、話し相手が減り孤独になっていく。しまいには、チャーリーの相手をしてくれるのはアルジャーノンだけになってしまい、賢くなってたくさんの友達と話をすることを夢見てきたチャーリーは、賢くなることで幸せを感じることができなくなってしまっていた。

脳の退化

アルジャーノンが死んだ。死ぬ前のアルジャーノンは明らかに脳が退化していた。得意だった迷路をさせても道に迷い、壁に体をぶつけては痙攣を起こす。餌もろくに食べようとせず、餌をやろうとすると人間を傷つけようとしてきた。それを見たチャーリーは、いずれ自分も退化するのではないかと不安になる。

チャーリーは一つの研究結果を報告する。それは「人工的に急速に上げられたIQはそのスピードと同じ速さで退化する」という事だった。

次第に、チャーリの脳も退化を始め、今まで読むことができた論文が理解できなくなり、経過報告書の内容も、辞書を引きながら単語を書くので時間がかかるようになり、できるだけ簡単な単語で報告書を書くようになってしまう。その変化にチャーリーも気づき、アルジャーノンと同じ結末を迎えるのだと悟る。

感想

私は、この小説を読んだこともなければ、ドラマも見たことがなかったので、先入観を持たずストーリーを楽しむ事ができました。

知的障害を持ったチャーリーが、健常者の友達と同じように会話をして本を読み、人並みに仕事をする生活に憧れを抱き、賢くなるための努力をする姿は、障がい者だけではなく今を生きる私たちに勇気を与えてくれると思いるのだと思います。

賢くなって友達と難しい政治の話や本を読み、大学で学んだ勉強の報告を行い、友達に囲まれ楽しく幸せに暮らしたいという夢を掴むために脳手術を受けるが、知識を得ていくにつれて周囲の友達は「チャーリーは変わってしまった。おかしな話をする奴だ」とチャーリーから離れていき孤独を味わいます。

いじめられながらでも、馬鹿にされながらでも、チャーリーの周りには友達がいた暮らし。

賢くなり博学多識でも、チャーリーの周りからは人が離れていき孤独苦しむ暮らし。

チャーリーにとってはどちらが幸せだったのでしょうか。最後に、チャーリーの知能は退化と共に低下していき、自分が知的障がい者と同じ知能に戻ることを悟ったチャーリーは、自らの意思で施設へ戻ることを希望するですが、知能が低下するから施設に戻るのではなく、結果的にチャーリーにとっては周りに友達がいる環境の方が幸せだから、昔の暮らしに戻る選択をしたんじゃないでしょか。

この小説が長年にわたり愛されてきたのは、人それぞれに感じることや捉え方が異なるからだと思います。この小説を読んだ後に、切なく涙を流す人もいれば、チャーリーは幸せになれたと感じる人もいると思います。私の感想は後者です。知能が下がっても、友達に囲まれた暮らしに戻れてよかったなと感じた側です。

この捉え方の違いが、10代という精神的にも多感な時期に読むと良い刺激になる事から、君に贈る本大賞に選ばれたのだと思いました。

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