『スキマワラシ』兄弟のひと夏を描いた物語。過去の記憶が見せるものは

本の紹介

兄弟に降りかかる摩訶不思議な体験は、言葉だけでは到底理解されない程の現象が相次いだ真夏の出来事。謎を解き明かすために過去を探る兄弟と、真実へと導く女と犬。スキマワラシとは何者なのか??そして迎えた結末とは??謎多きファンタジックミステリー小説。

今回は、「スキマワラシ」という小説を紹介します。表紙の可愛らしさとファンタジー感が気に入ったので読むことにしました。久々の長編小説だったので、読み切るのに時間がかかるかなぁーって思っていましたが、ぶっちゃけて言うと面白すぎてすぐ読み切ってしまいました。また、短編小説のような書き方をされていたので、頭の中で整理しながら読み進めていくこともでき、とても読みやすく感じた小説です。

本記事では、ネタバレを最小限に抑える為、キーポイントとなる事はお伝えしておりません。謎多き小説はご自身で謎を解き明かしてみてください。

内容説明(裏表紙より)

太郎と散多は古道具店を営む兄弟。

ものに触れるとそこに宿る記憶が見えるという散多は、

古いタイルからこれまでにないほどの強烈なイメージを受ける。

そこに映し出されたのは幼い頃に亡くした両親の姿だった。

タイルと両親にまつわる謎と、廃ビルで目撃された少女の都市伝説が交差するとき、

時を越えた物語の扉が開く。

兄弟のひと夏の不思議な冒険を描くファンタジックミステリー長編。

主な登場人物

纐纈 太郎(コウケツ タロウ)

兄弟の兄で古道具屋を営む。古道具の中でも引手に目がなく、特殊な形状の引手を見つけると買い取ることが多い。記憶力が強く、物事を映像として記憶している。

纐纈 散多(コウケツ サンタ)

兄弟の弟で兄が営む古道具店を手伝う傍らで、夜になるとバーを開いている。人より記憶力が弱いがものに触れるとそこに宿る記憶が見えてしまう能力がある。

醍醐 覇南子(ダイゴ ハナコ)

アート作品を作る女性。名字の「醍醐」は、兄弟の母親の旧姓と同じ名前。また、覇南子は養女であり「ハナコ」は生みの母が付けた名前で、漢字の「覇南子」は育ての親が付けた名前。覇南子の生みの母親は、シングルマザーで覇南子を産んだ後に亡くなってしまった。お金が無く育てられないと思い、養女に出す事を決め、育ての親に「ハナコ」と名を残してほしいと頼む。

ジローとナット

見た目も性格も瓜二つな犬。ジローは兄弟が幼い頃に飼っていた犬で、すでに亡くなっている。ナットは覇南子が住む家の大家が飼っている犬で、今も健在である。

こんな人に読んでほしい

コレクションや物集めなどの収集癖がある人

ファンタジー小説が好きな人

読んだ後の考察や考えさせられる小説が好きな人

注目ポイント

「アレ」のこと、タイルのこと

兄弟だけの秘密がある。それは散多の身におこる「アレ」の事で、「アレ」が起こるときの散多は金縛りに合っているような感覚で、治まるまでは身動きが取れない。また「アレ」の最中は、夢か現実かも分からないくらいリアルな体験をする。古民家の襖を開くと、その先にはトンネルが広がっており、その先からは明かりが漏れて緑が生い茂っている光景と共に、実際の風や草花の香りまでも感じる体験をする。それらを踏まえて他人に説明するとなると、その労力を考えただけで鬱陶しくなるのと、単に変わり者扱いされてしまうので、二人だけの秘密事にしているのだった。

また、散多がリラックスしたり気を抜いているときに「アレ」はふとした瞬間に襲ってきやすいことがわかっている。

そして、「アレ」を引き起こすのはきまってタイルに触れた時だった。もちろん、すべてのタイルに反応するわけではない。特定の条件下にあるタイルに触れた時だけ、凄まじい圧と熱気により自分を制御することができない程の「アレ」に襲われていた。

兄弟二人はタイルに何かしらの秘密があることに気づき、散多が「アレ」を起こしたタイルの過去を調べていくうちに、ある共通点に気づくのであった。

ジローのこと、ナットのこと

ジローは犬種と年齢も不明な犬。いつも家の玄関前に寝そべっており、人が通っても話しかけても基本的には無視をする。

そんなジローには不思議な行動をする時があった。それは、誰も知らぬうちに姿を消し、誰も気づかないうちに戻ってくる放浪癖があった。それが何なのか判明したのは、たまたまジローが放浪している瞬間を散多が見かけたからだった。

放浪するジローは目的を持つように力強く歩いていた。するとジローは茂みに入り、少しして出てきた時は普段通りにだるそうに歩いていた。その後、家族全員でジローが入っていった茂みを確認すると、そこには大量のサンダルが隠されていた。そのサンダルからある事件へと発展する。

そして兄弟が大人になっているときには、ジローは亡くなっている。

犬のナットは、兄弟が大人になった時に出てくる。見た目はジローと瓜二つで、性格もしぐさも兄弟からしたらジローそのものだった。しかし、ジローとナットは生きている年代が違うので同じ犬ではない。

ある日、些細な事から散多がナットの散歩をすることになる。のろのろ歩くナットだが、その日は少し様子が違った。いきなり走り始めて、散多は付いて行くのがやっとだった。そしてナットが向かった先にあったものは、その後の兄弟の過去と謎めいた世界への重要なカギとなる場所だった。

兄が遭遇すること、醍醐覇南子のこと

兄が友人のアトリエを見た後に帰ろうとしたとき、ある一軒の古民家がきになった。開放してあることもあり、足を踏み入れることにした。

古民家に入ると、どこからか爽やかな風が流れ込んでくる。茂った草花に囲まれた時の自然あふれる香りに包まれたのだ。そして、ある引き戸に目が留まる。その先には違う成果が広がっている気がしていたので兄は引き戸を引いた。

その先にあったものはトンネルだった。トンネルのさらに先には出口があり、そこには麦わら帽子を被った白いワンピース姿の少女が立っていた。そして、その少女は兄の方に振り向き「ハナちゃんなの?」とこちらにやってくる。兄は恐怖にかられとっさに引き戸を閉めてしまった。

後日、兄弟でその古民家を訪れることになった。展示されていたアートは撤収される事になっており、古道具で持ち帰れるものがないか物色していた時だった。

二階から物音が瞬間、少女が現れたのではないかと思い二階へ駆け上がるも、真っ暗で何も見えない。

すると、奥の方から女性の声がする。兄弟はとっさに飛び下がり警戒すると、姿を現したのは兄弟と同年代くらいの女性だった。

女性は醍醐 覇南子と名乗った。

花市場で働く傍らでアート作品を作り、知人の紹介で古民家アートに出店していた。

それ以降、兄弟と醍醐覇南子は過去に導かれるように、数々の局面に直面することになる。

少女のこと、転用のこと

本作で一番謎多き存在の少女。目撃情報によれば、小学生くらいの女の子で、麦わら帽子に白いワンピースを着ている。目撃される場所は様々だが、共通して言えることは廃墟となった建物を取り壊す際に出現するという事と、その時に何かを拾っては肩から掛けている胴乱に入れているという事。

兄弟は少女が何かしらのメッセージを訴えているのではと思い、出現しそうな場所を探すが現れてはくれない。

そんな中、タイルの事や「アレ」の事が少しづつ分かってくると同時に、少女が出現する場所の条件も分かってきた。それは昔にある施設で使われていたタイルを再利用して現代で使われている場所で、そこが取り壊される直前に現れるという事。つまり、昔使われていたタイルが転用されていた場所に、少女は現れていた。次第に過去の事への核心に迫るにつれ、少女との距離も近くなる。

世間の人たちの前にも少女は現れるようになり、白いワンピースの服を着た少女の都市伝説が広がっていた。

なぜ、少女は転用される場所で姿を現すのか、そして取り壊される現場でなにを集めていたのか。。。

感想

単刀直入に面白かったです。ひと夏の物語の中にたくさんの謎が散りばめられており、それを少しずつ繋げていく様な感覚で読んでいました。そして読み終わった後でも、いくつか繋がらない謎が残っています。「どういうこと?」「あれは何だったの?」そんな結末でもありましたが、とても心に残る内容の小説です。紹介文に「ファンタジックミステリー」とありますが、ミステリー感は少なめです。ファンタジー小説が好きな人にはおすすめの長編小説だと思います。

あまりネタバレにはしたくないので深くは触れませんが、少女の存在と少女が集めていた物の意味を今でも考えています。たぶんそこには、作家の恩田さんの思いが詰まっているような気がします。

あと、本作に出てくる醍醐覇南子さんのアート作品を私も見てみたいと感じました。

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