結末で知る事実に、まさか!?と読み返すこと間違いない小説のご紹介です。
小説といえば、ミステリーやファンタジーなど様々なジャンルがありますが、どれも結末に向けてボルテージが上がっていきます。
『世界でいちばん透きとおった物語』でも同様に、結末では読者の心を掴むだけではなく、大きな仕掛けに気付かされます。
そんなユーモアがあり、魅力的な小説『世界でいちばん透きとおった物語』を今回はご紹介致します。
※ネタバレなしを心がけています。結末や考察は、読者の方ご自身で楽しんで頂きたいと思っておりますので、出来るだけネタバレしないように書いています。ご覧になられた方で、ご期待に沿えない場合があるかもしれませんが、ご理解いただけますと幸いです。
内容説明(裏表紙より)
大御所ミステリ小説家の宮内彰吾が死去した。
宮内は妻帯者ながら多くの女性と交際し、
そのうちの一人の子供までつくっていた。
それが僕だ。
「親父が『世界でいちばん透きとおった物語』
という小説を死ぬ書いていたらしい。
何か知らないか」宮内の長男からの連絡を
きっかけに始まった遺稿探し。
編集者の霧子さんの助言をもとに
調べるのだが。
予測不能の結末が待つ、衝撃の物語。
主な登場人物
藤阪 燈真(ふじさか とうま)
主人公。有名なミステリー作家・宮内彰吾の不倫相手の息子。
藤阪 恵美(ふじさか めぐみ)
燈真の母であり、宮内彰吾の不倫相手。フリーランスで校正者の仕事をしている。
深町 霧子(ふかまち きりこ)
S社の文芸編集者。
松方 朋晃(まつかた ともあき)
宮内彰吾の息子。藤阪燈真とは腹違いの兄弟になる。
宮内 彰吾(みやうち しょうご)
有名なミステリー作家。宮内彰吾はペンネームで、本名は松方朋泰(まつかた ともやす)。
こんな人に読んでほしい
親を恨んでしまっている人。
小説を愛する人。
ネタバレ禁止を守れる人。
注目ポイント
ラストで知る衝撃の事実
この小説をラストまで読んだ人は、必ず今まで読んだページをめくり返す事になると思います。
それだけ、今までで感じたことのない驚きと衝撃を受けるでしょう。だからこそ、ネタバレなし先入観なしで本作を楽しんで頂きたいです。
ネタバレすれすれでお話しするならば、とても読みやすい小説だったという点です。
これは、私が結末を知る前段階で感じていたことでした。読み進めていても、読書をしていて感じる疲労感やストレスを感じずに、あっという間に一気読みしていました。
また、小説のタイトル「世界でいちばん透きとおった物語」を見て、なにか違和感を感じないでしょうか。
無駄に「ひらがな」が多いと感じませんか?
「世界で一番透き通った物語」の方が文字数も少なくすむし、読みやすいですよね。そこをあえて、ひらがなを交えているのは、ある理由があるから。
その理由は、本作にある意外な仕掛けのためでもあるのです。
目の障害
主人公の藤阪燈真は、母親がしていた校正者の仕事を手伝っていました。
校正者とは、作家が書いた原稿に文字や漢字の誤りがないかをチェックする仕事で、小説が出来上がる工程では必要不可欠な役割です。
燈真はその作業を得意としていましたが、出来上がった紙書籍の小説を読むと、目が疲れて掠れた様に見えてしまうため、電子書籍でしか小説が読めない特殊な病気にかかっていました。
ここで一つの疑問が生まれます。
原稿段階の小説も、紙書籍で作り上げられた小説も、どちらも紙に文字が書かれた文書です。しかし、燈真は後者の紙書籍になった途端に読めなくなるのです。
燈真本人ですら、症状の詳細や原因について詳しく分かっていなかったのですが、編集者の霧子が燈真の話を聞く中で感じ取り、どんな状況下で症状が出てしまうのか少しづつわかってくるようになります。
そして、紙書籍が読めなくなってしまう症状そのものが、本作の大きなポイントに繋がってくるのです。
透きとおる
小説のタイトルにもある「透きとおる」という言葉は、本作にとって重要なキーワードとなっています。
透きとおる小説と聞けば、青空の下で繰り広げられる爽やかな青春ストーリーや、甘酸っぱい純粋な恋愛ストーリーを思い描いてしまいますが、本作の「透きとおる」は少し意味合いが違ってきます。
遺稿探しをする中で、彰吾が生前に交際していた女性に話を聞くうちに、少しづつ見えてくる「世界でいちばん透きとおった物語」の内容は、決して透きとおる様なものではないのです。
では、なぜそんなタイトルにしてあるのか。
『透きとおる』の本当の意味とは。
是非、本作を読んで体感してください。
感想
評判通りの素晴らしい小説でした。
ストーリー自体も、ミステリー感があり読みながらそそられていくのですが、やはり結末で知る最後の衝撃は今までに感じたことの無いものでした。
よく作り込まれ、読者をはっと驚かせる仕掛けに、読み終わったあとは呆然としてしまいます。
個人的に好きだった所は、最後に作家の杉井光さんがお礼のコメントとして『(前略)ほんとうにありがとうございました。』と述べられています。そこでもひらがなが多いですよね。
そこにはたくさんの気持ちが込められている様に感じれました。
こんな素晴らしい小説と出会えて良かったと思います。
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