『カケラ』少女の死をめぐり、見え隠れする人の本性。切ない心理ミステリー。

本の紹介

人は人生の中で一度は「美」について考える瞬間があると思います。周囲からの評価が気になり、自意識を過剰に持ちすぎることで本当の美しさを見失ってしまう。誰しもが経験し、特に思春期に多い悩みではないでしょうか。

周囲からの評価と見え隠れする人の本性を表現した心理ミステリーで、終わりは切ないイヤミス小説となっています。

内容説明(裏表紙より)

美容外科医の橘久乃は幼馴染の志保から「痩せたい」と相談を受ける。

カウンセリング中に出てきたのは、太っていた同級生・横網八重子の思い出と、その娘の有羽が自殺したとう情報だった。

少女の死をめぐり、食い違う人々の証言と、見え隠れする自己正当化の声。

有羽を追いつめたものは果たしていったい。

周囲の目と自意識によって作られる評価の恐ろしさを描くミステリー長編。

主な登場人物

橘 久乃

美容外科医で討論番組に出演するほど人気の女医。同級生の娘である有羽が自殺したことを知り、原因の究明のため関係する人たちに話を聞きに行く。

横網 八重子

橘久乃の同級生で自殺した有羽の母親。娘を虐待し自殺に追い込んだ母親としてネット上で曝されている。

吉良 有羽

八重子の娘。体重130キロを超える肥満体型で母親が作るドーナツが大好き。ある人、大好きなドーナツに囲まれながら大量の睡眠薬を飲み自ら命を絶ってしまう。

こんな人に読んでほしい

外見の美意識が高く、周囲の目が気になる人

美容に関心がある人

自分を好きになれない人

注目ポイント

大量のドーナツに囲まれて

有羽は八重子の作ったドーナツに囲まれて、睡眠薬を飲み自殺をしていた。

彼女にとってドーナツとは、ただ美味しい食べ物だから好きというわけではなく、ドーナツの穴から覗いたその先には、将来の姿が見えるのだと幼い頃に教わったから。

また、辛い出来事の後に食事が喉を通らない時も、八重子の作るドーナツだけは食べる事が出来た。そのせいもあり、有羽の体重は130キロを超えてしまう。

有羽にとってドーナツとは、自分の体を作ってくれたもの。母親・八重子との繋がり。ドーナツの穴を覗けば将来の姿が見える。と言った、食べ物以上のかけがえの無い存在だった。

私に権利はない

八重子は口癖のように「私に権利はない」と口にしている。久々に会った同級生の橘久乃にサノちゃんってあだ名で呼んでいいよと言われても、私に橘さんをサノちゃんと呼ぶ権利はないと言った。

昔の話。友達が少なかった八重子を気にして、学校で行われたオリエンテーションで橘久乃は自分の友達グループに八重子を招待して行動を共にした。

美人でスタイルも良い橘久乃と、それを取り巻く友達グループに加われたことが八重子にとっては嬉しかった。

ようやく打ち解けてきた頃に、八重子は橘久乃の事をサノちゃんとあだ名で呼んでみたが、橘久乃を取り巻く友達の1人から、「あんたがあだ名で呼ぶ権利ないから」と突き返される。その時の橘久乃は、女王様の様に微笑んでいるだけだった。

それ以降、私はデブで醜いから、橘さんと対等な人間じゃないから等、八重子は権利や人権について自意識が過剰になっていった。

カケラと真実

本作のタイトル『カケラ』の意味は、有羽が自殺した理由を知る為に、橘久乃が答え繋がるカケラを集めるように人々から話を聞くからである。

だが聞く人によって見解が違っている。少女が遺書も書く事なく睡眠薬を飲み自殺をした状況なので、母親によって自殺に追い込まれたと言う人もいれば、彼女は明るく陽気な性格だから自殺をするような人じゃないと人もいる。

結果的に、真実は小説の最後の最後で分かることになる。自殺の理由は、有羽の置かれた立場でなければ理解できないもので、橘久乃がカケラを集めてもパズルは完成されるものではなかった。他人がどう推測しても、核心の所は本人にか分からないものだった。

その真実は、このブログからではなく『カケラ』を読んで知ってください。

感想

最初は少し読みにくさを感じました。インタビュー形式で話が進む中、主人公の橘久乃が語るのではなく、インタビューをされている人物が一方的に話をしているからです。

まだ、対話するように橘久乃の語りもあれば物語の理解度も早かったのかも知れませんが、語り手が1人の展開で、更にはその語り手が何人も出てくるので、要領を掴むのに時間がかかる小説でした。

内容はイヤミス小説で、読み終えてもすっきりはしませんが、複雑な心理描写に引き込まれ楽しく読む事が出来ました。

なぜドーナツに囲まれて死んでしまったのか。ただ単に、ドーナツが好きだったから?いや違う。ドーナツの真ん中を覗いていたから。ドーナツを通じて母親と繋がりたかったから。だからドーナツに囲まれて死んでいったんだと思います。

今の時代、誹謗中傷で悩む人も多くいると思います。コンプレックスがあって自分に自信が持てない人や自分自身と向き合うのが怖い人。そんな人に気付いて欲しい。大切なのは中身です。

ドーナツの真ん中には1番美味しさが詰まってるのと同じで、人間の中心に1番近い所に良さが詰まってるんです。そこに自分自身が気付いてあげれるよう、自分の外見ばかり見るのではなく、中身を見てあげましょう。それと同じ様に、他人の中身も見てあげる事ができれば、もっと生きやすい世の中になるんじゃないかな。

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