誰にでも、1度や2度は人生に行き詰まることがあると思います。やりたい事が見つからず途方に暮れたり、仕事が上手くいかず転職に悩んだり、定年退職後に生きがいを無くしてしまったり。
人それぞれに悩みは絶えないと思います。それは生きている証とも言えるけれど、つい逃げ道や楽な道に目を向けてしまう。そんな葛藤の中で生きる私たちに、違った角度からの道筋を案内してくれる。そんな小説です。
私自身、今までに何度か転職をしてきています。その度に悩み苦しむこともありましたが、その都度で選んできた道、進んできた道は無意味なものではなく、幸せな今に繋がる1本の道だったんだなと思っています。
内容説明(裏表紙より)
『お探し物は本ですか?仕事ですか?人生ですか?』
人生に行き詰まりを感じていた5人が訪れた、町の小さな図書室。
彼らの背中を、無愛想だけど聞き上手な司書さんが、思いもよらない本のセレクトと可愛い付録で後押しします。
自分が本当に『探している物』に気がつき、明日への活力と希望が満ちていく物語。
主な登場人物
小町 さゆり
コミュニティハウスの図書室にいる司書。体が大きくて無愛想だが、『何をお探し?』と優しい言葉で探し物をしにきた人々を惹きつける。選書と付録で探し物を導く。
森永 のぞみ
小町さんと同じ図書室で働く司書見習い。その可愛らしさからのぞみちゃんと称され、小町さんのサポートをする。小町さんとのぞみちゃんには以前から繋がりがあった。
朋香
婦人服売り場で働く21歳の女性。転職に活かす為に、パソコンのスキルを身につけたくて図書室で入門書を探す。
諒
家具メーカーで働く35歳の男性。アンティークショップの開業を目指す為のスキルを身に付けたくて図書室で参考書を探す。
夏美
元雑誌編集者で、産休後の今は資料部で働く40歳の女性。子供を連れて図書室に行き、絵本を借りる時に小町さんと出会う。
浩弥
ニート生活を送る30歳の男性。小さい頃から漫画が好きで、イラストの専門学校に通うが、就職でつまずいた。偶然に立ち寄ったコミュニティハウスで図書室を見つけ小町さんと出会う。
正雄
有名菓子メーカーを定年退職した65歳の男性。定年退職後に、趣味もやりたい事も無く、社会の中で必要とされていない自分に気づく。そんな時、妻からコミュニティハウスで行われる囲碁教室を勧められ、図書館で囲碁の入門書を借りるため図書館に向かう。
こんな人に読んで欲しい
就職や転職に悩んでいる人
やりたい事や夢を見失った人
老後の生き方に迷っている人
あらすじ※ネタバレ要素あり
小町さゆりの選ぶ本と付録
図書室を訪れる5人は、司書をしている小町さんと出会う。それぞれ5人は悩みや葛藤を抱いており、彼女と会話をする中で自分の思いを打ち明ける。それを聞いた彼女は、それぞれに必要な本を選書するのだが、最後に全く関係のない本を1冊提案している。また、その本と一緒に彼女が趣味としている羊毛フェルトで作った可愛い手芸品も付録として手渡す。
朋香 本:ぐりとぐら 付録:フライパン
朋香は総合スーパーの婦人服売り場で働いていて、接客の仕事をしている。一緒に働く風紀委員のような真面目なパートさんが苦手で、婦人服売り場の仕事も好きになれていない。このまま今の仕事を続けていくことに自信を持てず、転職を考えた際にパソコンのスキルを身に着けた方が良いと考え、コミュニティーハウスで開かれているパソコン教室に通うことにした。
しかし、学生時代にワードで文章を書いたことがある程度で、エクセルなんかは全くダメだったので、まずはエクセルの入門書を借りようとコミュニティーハウスの中にある図書室を訪れた。図書室の中ではまだ若い少女のに見える森永のぞみという女の子が本の整理をいていた。朋香はその子に、エクセルやパソコンの専門書はどこにあるか尋ねると、奥の部屋に司書がいるからその人に尋ねると良いと言われ、そこで司書の小町さゆりと出会う。小町さんと話すうちに、仕事の悩みや転職を考えている事を打ち明けたあと、小町さんが勧めてくれた本は、パソコンの入門書と一緒に絵本の『ぐりとぐら』付録は羊毛フェルトで作られたフライパンを貰う。転職する為にパソコンスキルを身に付けたくて本を借りにきたのに、絵本と謎の付録を貰い朋香は困惑する。
それでも、せっかくなので家に帰りぐりとぐらを読むことにした。大人になって改めて読むと、幼い頃に思い込みをしていたことに気づく。ぐりとぐらが作ったのはホットケーキではなくカステラだった事。そのカステラを作る為に森に入ったのでは無く、普段通り食材集めの為に森に入ったら、たまたま大きな卵と遭遇していた事。そして、ぐりとぐらは既にカステラの作り方を知っていた事。
朋香はぐりとぐらが作っていたカステラを作りたくなったので、同じ作り方をしているレシピをネットで検索し、試行錯誤し何度も何度も失敗するも、カステラ作りのチャレンジを繰り返した。
繰り返し作る事で上手く作れるようになり、ちょっとした火加減の違い、卵を割って解く時の温度の重要性など、失敗を繰り返す事でわかる事がたくさんあった。その時、同じ職場のパートさんから言われた言葉を思い出す。『続けていくうちにわかる事もある』カステラを作り続けたからこそ、その言葉の意味が分かり、作ったカステラを職場に持っていき、パートさんに渡すと喜んでくれた。
そのパートさんは、ぐりとぐらが2人で協力し合う場面が好きだと言う。そして『私たちも協力して仕事もやっていけばいいのよ』と、、、朋香はぐりとぐらの姿を自分に重ねる。そして思う。『私に何ができて、何をやりたいのかはまだ分からない。だけど、焦らなくていい、背伸びもしなくていい。今は生活を整えて、やれることからやって、身に付けれるものから身につけよう』と。
諒 本:植物のふしぎ 付録:キジトラ猫
諒は高校生時代にアンティークショップが好きになり、大人になった今でも『いつかは自分でアンティークショップを起業する』夢を抱いている。しかし、サラリーマンとして働く傍で起業の勉強をする時間がない、35歳という年齢で退職し夢を追いかける自信がない、資金的にも起業できるほどの余裕もないため『いつかは。。いつかは。。』と無計画な夢を語るだけだった。
そんなある日、恋人と図書室へ行くことになる。そこで司書の小町さんに『アンティークショップをいつか開きたい』と曖昧な夢を語ると、起業に必要な参考書と一緒に『植物のふしぎ』という本を勧められる。また、付録としてキジトラ猫の羊毛フェルトを貰う。
図書室を出る時、コミュニティハウス通信(略:コミハ通信)を見かけ、そこには小町さんのイチオシと称して『キャッツ・ナウ・ブックス』が紹介されていた。それは、猫カフェと本屋が一緒になっているようなお店だった。
諒はキャッツ・ナウ・ブックスに足を運び、そこの店主は会社員として働く傍でお店をやっている事を知る。植物のふしぎを読んだ内容をヒントに、『パラレルキャリアの働き方』のあり方に行き着く。
店主は諒がお金も時間もなく、起業する勇気もない事について『大事なことは、運命のタイミングを逃さない事』『無いを目標にしない事』と言った。
その後、図書室へ借りた本を返に行った際、小町さんに『すでに始まっている。だってあなは自分の意志で動き出したじゃない』と起業への後押しをされる。
諒は最後にこう思う。『時間がないを言い訳にするのはやめよう。ある時間でできる事を考えるんだ』
夏美 本:月のとびら 付録:地球
夏美は雑誌編集部で15年間がむしゃらに頑張ってきた。妊娠がわかってもギリギリまで働き、出産後も4ヶ月で職場復帰を果たした。しかし、待っていたのは編集部ではなく資料部への異動だった。子供の面倒を見ながら、編集部のハードワークをこなす事は厳しいと判断されたのだった。アグレッシブに働いてきた夏美にとってショックが大きく、家に帰っても育児に協力的でない旦那にイラつき、ストレスばかり溜まる日が続いていた。
そんなある日、子供と一緒にコミュニティハウスに遊び行くと図書室がある事を知り、週末用に絵本を借りることにした。そこで小町さんと出会い、おすすめの絵本と一緒に『月のとびら』と言う占いの本と、地球を模した羊毛フェルトを貰った。
夏美が資料部へ異動した後は、独身の女性が編集部長へ抜擢されていた。夏美が担当していた作家の彼方みづえ先生もその女性が引き継ぎ、夏美は悔しさを隠しきれなかった。
そんな時に、みづえ先生のトークイベントに招待される。久々に先生に会える事が嬉しく、その後に食事にも誘ってもらったので楽しみにしていたが、当日になり子供が熱を出し、保育園のお迎えを旦那に頼むが仕事が忙しいから無理だと断られ、トークイベントを途中退席し、楽しみにしていた先生との食事は断念せざるおえなくなってしまう。
後日、みづえ先生から改めてランチに誘われ会うことになる。みづえ先生から、当時は親身に寄り添ってくれたおかげで良い作品を描く事ができて感謝していると伝えられて、夏美は感動する。そして、先生から子供を育てながら働く大変さ、次にステップの探し方のアドバイスをもらう。
帰宅した夏美は、借りていた本に目をやる。その中に『変容』と題したものが書かれており、みづえ先生のアドバイスと重なって、もう一度小説の編集がしたいと思うようになり、大手出版社の求人に応募するが、書類選考で落とされてしまう。
転職に悩んでいる時に、昔からの友人が、知り合いの勤めている出版社で求人の募集をしているから興味があれば行ってみないかと誘いを受ける。そこの出版社は、みづえ先生の小説も出している会社だった事と、子供を育てる母親に優しい会社でもあったので、旦那と話し合いをして受けることにした。旦那は、妻が転職を考えている事や育児と仕事の両立が大変な事なんて考えてもなかったため、驚きがあったが妻の意見を尊重し協力し合って子育てをする事を約束した。
夏美は、やりたかった小説の編集と子育て中の女性でも働きやすい環境で、新しいスタートを切ることができた。
浩弥 本:進化の記録 付録:飛行機
幼い頃から漫画が大好きだった浩弥。絵に興味を持ち、イラストの専門学校に通い就職もイラストを活かした仕事につけるよう努力したが、独特な世界観のイラストを描くため、なかなか受け入れてもらえず就職でつまずいた。バイトもいくつかやったが要領が悪い上に体力もないため長続きしなかった。そして30歳になる今までまでニートを続けている。
またまた立ち寄ったコミュニティハウスで、好きな漫画キャラの羊毛フェルトを見つける。その制作者を探し図書室の小町さんのところに行き着く。小町さんに漫画家になる夢がある事を話すと『ビジュアル 進化の記録 ダーウィンたちが見た世界』と言う本を勧められ、付録として飛行機の羊毛フェルトを貰う。
進化の記録にはこんな事が書かれていた。『好ましい変異は保存され、好ましくない変異は消滅される』これをみた浩弥は、万人受けしない絵しか描けない自分は好ましくない変異なんだと、自分と重ねてしまい落ち込む。
また、浩弥には出来の良い兄がおり、兄と比べる事で母親からもよく思われていない、社会からも除外されてしまい、自分には居場所がないとさらに落ち込む。
その頃、旧友が遅咲きで作家デビューしたと報告書をくれた。昔からその友人が書く小説を絶賛しており、浩弥が作家デビューを信じていてくれたから、この歳まで書き続ける事ができたと感謝された。
浩弥は進化の記録を読む為に、図書室に通うようになる。『種の起源』を発表したダーウィンの裏にはウォレスという人物の存在があり、本当ならウォレスが有名になっていたはずなのに、先に発表したダーウィンだけが世に名を残した事を知る。
この事を小町さんに嘆いくと『あなたがウォレスの存在を知り、ウォレスについて考えるだけでも、ウォレスの生きる場所を作っている』と言われる。それは、作家デビューした旧友にも言える事だった。浩弥が信じてくれているから、作家と言う居場所をを目指し続ける事ができたんだと。
それから、浩弥はコミュニティハウスで働くようになり、空き時間を見つけては図書室へ行き、進化の記録に写っている生物の写真をデッサンするようになった。書いた絵をのぞみちゃんやコミュニティハウスに来る人たちに褒められて嬉しくなる。
浩弥は心の中で、人の心に残る絵を描く事が自分の居場所を作ることに繋がるのだと感じた。
正雄 本:げんげと蛙 付録:カニ
正雄は有名菓子メーカーの営業部長をしていたが、定年退職後の人生でなにをすれば良いのかわからずにいた。特に趣味もなく、やりたい事も無く、ただ社会の輪から外れてしまったと言う思いから、自分が何者でもない存在でしかないと考えてしまう。
そんな時に、妻から囲碁教室に通ってみてはどうかと言われる。これまで囲碁なんてやったことがなく、実際に通ってみても難しくてなかなかルールが覚えれなかった。そこで囲碁の入門書を借りる為に図書室に行くことにした。
司書の小町さんと出会い、話しているうちに小町さんの好きなお菓子が正雄の勤めていた菓子メーカーのお菓子だった事を知る、そして定年退職後の人生が意味のないものに感じると小町さんに話す。すると、小町さんは囲碁の入門書と一緒に『げんげの蛙』と言う詩集を勧められ、付録としてカニの羊毛フェルトを貰う。
翌日、妻と一緒にスーパーに食材を買いに行った時、水産売り場でカニが売られていることに気づく。そこには『唐揚げに!ペットに!』と書かれていた。そのカニは、食われる存在と愛でられる存在との紙一重の立場にあるのだった。それは勤めていた頃の正雄と同じで、組織に食われる存在だったか、会社に愛でられる存在だったかと考える。その帰りに、正雄の娘が働く書店に顔を出し、夕食を一緒に食べて帰ろうと話すが、遅番だからやめとくと言われ、夫婦はそのまま帰宅した。
正雄は帰宅した後、詩集を読み『窓』という詩に興味を持つ。『波はよせ、波はかえし』と言う言葉が繰り返される詩だが、なぜタイトルは『窓』なのか疑問に思う。広大な海が窓の型枠に閉じ込められているようで窮屈な印象を持っていた。その事を娘に話すと、娘もその詩を知っていて、窓から広大な海を眺めた詩で私は好きな詩なんだと言うので、正雄はひとそれぞれ感じ方がこうも違うものかと驚いた。さらに娘は、詩は自由にイメージして読めば良くて、人それぞれに感じ方は違うのだと言った。
ある日、正雄はマンションの管理人と会話をしている中で、彼が様々な職を渡り歩いている事を知りる。今までに菓子メーカー一筋で働いていた正雄にとっては驚きだった。そして、管理人は現代の社会について『人と人が関わるならそれは全て社会だと思う。接点を持つことによって起こる何かが、過去でも未来でも。』と考えを述べた。
読んだ『窓』の詩や娘との話を重ね、詩や他人の人生と一緒に生きる感覚を味わう。
正雄は図書室を訪れ、小町さんに本の選書と付録はどうやって選んでいるのかと聞く。すると彼女は『適当。よく言えばインスピレーションで選んでる。』と答えた。そして、こう付け加える『皆さん、私が差し上げた付録の意味はご自身で探し当てるんです。本もそうなの。読んだ人が自分自身に紐づけてその人だけの何かを得るんです。』
感想
読み終わった後、私も含めてこう思う人が多いんじゃないでしょうか。「私も小町さんに会って、選書してもらいたい。私が貰える羊毛フェルトってなんだろうか?」って。
私も、これまで歩んできた人生の中で、辛く悩んだ時期がありました。そんな時に小町さんと出会えていたら、今とは違う人生だったのだろうかと考えてしまいます。しかし、過去にどんな過程を歩んでいたとしても、今を生きる道を自ら選んで、今の幸せな暮らしを探し当てていると思うと、気づかず無意識のうちに過去と未来は紐づけされているのかなと思いました。
今まで、読んでいて面白くてワクワクするような本とはたくさん出合ってきましたが、この本ように、心に響く小説とはめったに出会うことができないと思います。読んでいて、たくさんの名言と出会っているようで幸せでした。
年齢関係なく、この本は就職で悩んでいる人、夢を見失いかけている人、人生に行き詰まりを感じている人へぜひ読んでいただきたい本だと思います。
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