全てが無力化され逃げる事しかできず、ただ死を待つ状況であなたならどんな行動を取りますか?
面白半分で他人事のようにSNSを見ている人、信仰に従い神に祈りを捧げ続ける人、生きる可能性を諦め抗うことをやめる人、打開策を探し懸命に戦う人。
窮地に追い込まれた時に、その人の本来の姿が現れてきます。
今回ご紹介する「WALL-ウォール」では、そんな多彩な人間模様が描かれています。
科学的な観点、家族愛、政治の闇、SNSによる誤った情報の恐ろしさなど、数多くの視点から作る出される物語には、ハラハラドキドキが隠せないSFミステリー小説となっています。
内容説明(裏表紙より)
202X年のある夏の日。ロシア人男性が不思議な半透明の巨大な壁が近づいてくる事に気づき、
それに触れたとたん、手が「消去」された。
「ウォール」と名付けられたそれは、やがて北海道に上陸。
徐々に本州、西へと人々を飲み込んでいく。真実とデマが拡散され、日本中がパニックに。
これは自然災害か神の審判か。
人々は科学と人智をもって対峙するが、「ウォール」はそれを無慈悲にも嘲笑う。
一気読みのパニックSFミステリー。
※ネタバレなしを心がけています。結末や考察は、読者の方ご自身で楽しんで頂きたいと思っておりますので、出来るだけネタバレしないように書いています。ご覧になられた方で、ご期待に沿えない場合があるかもしれませんが、ご理解いただけますと幸いです。
主な登場人物
紺野 雪子(こんの ゆきこ)
35歳の女性で東京技術大学の准教授をしている。物理学では珍しい女性の研究者。
山ノ井教授(やまのい)
東京技術大学で教授をしている。雪子の上司。
北沢 喬之(きたざわ たかゆき)
内閣府防災担当制作統括官付参事官。雪子と同じ高校の1つ先輩。
尾田 元樹(おだ もとき)
フリーランスのシステムエンジニア。シングルファーザー。
尾田 穂波(おだ ほなみ)
7歳の少女。元樹の娘。
小野田 奏太(おのだ そうた)
中央新聞社の記者。仙台支局で勤務している。
こんな人に読んでほしい
ハラスメントを受け、苦しんでいる人。
信仰を大切にしている人。
いざという時の行動力に自信が無い人。
注目ポイント
多彩な人間模様を描いている
本作には多くの登場人物が出てきます。それらの登場人物は社会的地位や自分が置かれている状況によって、窮地に立たされた時の選択は異なるのです。
目の前に「絶望」が迫っている状況では、大きく分類すると3つのパターンに分かれることが書かれていたように感じました。
①事後の事だけを考え保身に走る人や、楽観的な考え方で現実を直視しない人。
②自分の命に代えても、守りたい人の為に行動を取る人。
③自分の役割を理解し、可能な限りで全員が生き残る為の最善となる行動を選ぶ人。
生命の危機にさらされた時こそ、その人がもつ本来の性質や性格を見る事ができるのだと思います。
しかし、上記の①~③にはない4番目の行動を取る人もいました。それは、、、
④生きる目的を失い、神に祈りを捧げる人。または死を受け入れる人。
①~③と④の違いは、「生きる目的」を持っているかいないかの違いです。本作には信仰を大切にする人も描かれています。
生きる目的
システムエンジニアの尾田は、ウォールから逃げる途中である光景を見てこう言うのです。それは宗教の信者たちが天に向かって神に祈りを捧げていた時のこと、「信者は祈る以外に、やるべきことがあるんじゃないか?」と共に逃げていた女性に問いかけました。するとその女性はこんなことを言います。「生きる目的があれば、もちろんそうするでしょう。でもきっと、あの人たちにはそれがない。だから祈るのです」続けて「私も同じようなものだから」と。
その女性は、数年前に最愛の旦那さんを亡くし「生きる目的を失っている状態」でした。
しかし、生きる目的が無いからと言って、それが良くないと言う事ではありません。
信者にとって自分が生き延びても、または命を落としても、信じた神様が下した審判の結果として、それをただ受け入れるだけなのです。また、旦那を亡くし生きる目的を失った女性は、旦那が待つ所に行けると微笑むのです。
その人の「生きる目的」の有無によって、生命の危機に直面した時は「生と死」の答えが明確に分かれていました。
結末は以外な終わり方
雪子の努力と周囲の助けにより、謎に満ちていた壁「ウォール」について少しづつ分かってくることが増えてきます。
なぜ壁に触れると人は消えてしまうのか・・・。なぜ壁は動いているのか・・・。壁の正体はなんなのか・・・。
ついに謎を解き明かし、唯一生存する為の方法を見つ出した雪子たちは、日本国内に住む人々を安全な方法で避難をさせます。
しかし、避難をしている途中に思いもよらないことが起きるのです。
それは誰も予想することの出来ない、そして考察を秘めた終結を迎えるのでした。
感想
私人身、初めてSFミステリーの小説を読みました。
SFと言ったら、スターウォーズのイメージが強かったので、そんな小説を思い描いていたのですが、想像より身近なストーリだったので、読みやすくて楽しめました。
それにしても、始まりから結末までハラハラドキドキの展開が続き、まさに一気読みをしてしまいました。
SF要素やミステリーだけではなく、合間合間で家族愛を感じれる瞬間もあり、後半では涙ぐむシーンもありました。
ネタバレに繋がりそうなので多言はしませんが、「ウォール」を書かれた周木律さんにとっての「ウォール」とはなんだったんでしょうか。。。考察が必要ですね。
コメント