希望に満ち溢れた人でも、その糸が断ち切られたら、一瞬にして失望に変わる。また、希望がなく先が見えない人でも、そのまだ先を見据える人には必ず希望が待っている。
私は、この小説を読んで希望を持てることの素晴らしさと、その反面で失うことの恐ろしさを感じることができました。
今回は、東野圭吾さんの『希望の糸』をご紹介いたします。
特にこの小説は、希望を見出せないでいる人に読んでいただきたい小説です。
内容紹介(裏表紙より)
小さな喫茶店を営む女性が殺された。
加賀と松宮が捜査しても被害者に関する手がかりは善人というだけ。
彼女の不可解な行動を調べると、ある少女の存在が浮上する。
一方、金沢で1人の男性が息を引き取ろうとしていた。
彼の遺言書には意外な人物の名前があった。
彼女や彼が追い求めた希望とは何か。
主な登場人物
松宮 脩平(まつみや しゅうへい)
警視庁捜査一課の刑事。若手刑事と共に、花塚 弥生の殺人事件について調査することになる。
花塚 弥生(はなづか やよい)
小さなカフェの店主。何者かによって殺害されてしまうが、彼女のことを悪くいう物は誰もいなかった。
汐見 行伸(しおみ ゆきのぶ)
妻と子供2人で幸せに暮らす4人家族だったが、新潟中越地震で2人の子供を失う。生き甲斐を失った行伸と妻は、新たに子供を作ることに。不妊治療の末、体外受精により子供を授かるが、それは希望と同時に失望の始まりだった。
汐見 萌奈(しおみ もな)
汐見 行伸の娘で、体外受精で授かった3人目の子供。
綿貫 哲彦(わたぬき てつひこ)
花塚 弥生の元夫。弥生が殺害される前に連絡をとっていたことから、松宮から調査協力を依頼される。
中屋 多由子(なかや たゆこ)
綿貫 哲彦の内縁の妻。哲彦と暮らすが、子供には恵まれていない。
こんな人に読んで欲しい
不妊治療を考えている人
親子関係で悩んでいる人
生きるための希望が見えない人
注目ポイント
希望と失望は紙一重
本作にとって、希望は切っても切り離せない重要なキーワードです。人は生まれてから息絶えるまでの人生の中で、必ず希望と糸で結ばれる。
ただ、結ばれた糸が長く、自分に繋がれた希望に巡り会えるのが遅かったり、それまでの人生で希望が見出せず失望ばかりしてしまう。
逆に結ばれた糸が短く希望に巡り会えても、すぐ糸が切れてしまい、失望してしまう。しかし、失望の後にはまた新たな希望と糸で結ばれる。
人の人生ってのは、その繰り返し。
ある家族は、震災で子供を失い失望するが、体外受精により子供を授かり、また希望を見出す。
ある娘は、親から愛されてない、代替えの娘、必要ない子供、生まれながらに失望を繰り返すが、真実の愛を感じた時、希望に満ち溢れる。
ある女性は、好きな人と安定した暮らしの中で希望に満ち溢れるが、破綻に直面し失望する。そして人としての道を外れてしまうが、最後は最愛の人の言葉で希望を持ち、前を向き進むことができる。
こうやって人は皆、希望と失望を繰り返す。
刑事としての使命
殺人事件は、思いのほか早期解決が出来た。犯人から自分が殺したと自白してきたからだ。犯人が明かした殺害方法や凶器は、警察が開示していない情報と一致したため、早期逮捕に繋がった。
しかし、刑事の松宮にとって腑に落ちない点があった。無事解決した事件の裏に、まだ隠された闇があるのではないかと、ひとり捜査を続行する。
そして、その闇と直面した時に松宮は思う。
全てを明るみにするべきなのかと、、、
刑事としての使命は、事件を解決し被害者の無念を少しでも晴らすことだが、必要以上に介入し、知らなくて良いことが明るみになることで、新たに悲しむ人を増やすのではないかと。
刑事としての使命は、どこまでなのだろうか。最後に松宮が出した答えとは、、、
感想
とても深い内容で、感動しました。そして、タイトル通りの小説です。このブログで失望という言葉を使っていますが、本作にそんな言葉は出てきません。ただ、希望の対義語が失望だったから使っています。
読み終えた今になって感じるのは、失望の後には必ず希望がある。希望が途絶え失望に落ちたとしても、必ず救われ希望が待っている。
そう東野圭吾さんは伝えたかったんじゃないかと、思っています。
本作に出てくる人物たちは、みな希望と繋がれていて、糸が切れるように失望へと落とされてしまいます。しかし、必ずしもそのまま落ちるのではなく、その先には一つの小さな希望と出会うのです。
個人的に注目してもらいたいのは、娘の萌奈です。本作の中で一番の被害者であり、誰よりも救われた人物なんじゃないかと思います。
是非とも、この小説はたくさんの人に読んでほしいと心から願います。
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